マンション騒音裁判の事例 その1
2016/01/06
古いマンションの和室の畳を撤去してフローリングに改装する人が多くなって以来、上階の足音が原因の騒音トラブルが増えました。
この判例はその一例です。
足音騒音の裁判事例1
事案の概要
登場人物
A 被害者 分譲マンションの所有者
B 加害者(騒音源) Aの上階の住人
事実関係
このマンションは、昭和52年に建築され、各住戸の床はカーペット敷きまたは畳敷きであった。
Bは昭和62年に、自宅の各部屋の床をフローリングに改装した。このフローリング材の遮音性能は「L−60」であって、遮音性能としては最低限の性能しかもっていなかった。
Aは、B宅の足音や椅子の移動音が気になるようになり、さらに娘が歩行するようになってからはその足音が気になるようになって、不眠を訴えるようになった。
Aは平成元年から同三年にかけて、直接に、または管理人を通じて、Bに苦情を申し入れた。
Bの家族は、Aの苦情を受けて、ダイニンキッチンのテーブル下に絨毯を敷き、椅子の足にフェルトを貼り、子供の遊具については押し車など騒音のでるものは買わないように留意した。
しかしながら、足音などの騒音はなお聞こえていたため、Aは平成五年にマンションを6000万円で売却して転居した。
裁判での各者の主張
Aは、裁判で次のとおり主張した。
1.このマンションは本来6345万円で売却できるはずの物件であったのにBの騒音が理由で減価をきたして6000万円でしか売れなかった。よって、Bは差額の345万円を賠償すべきである。
2.BはAおよびAの家族に対して、慰謝料として、一人あたり100万円を支払うべきである。
裁判の結果
請求棄却(A敗訴)
理由
裁判所が認定した事実は次のようなものです。
1.フローリングに改装したことにより騒音がひどくなったことは事実である。しかし、フローリングに改装すること自体を避難することは難しい。
2.B宅の騒音は、通常の生活によるものである。
3.Bは、椅子の足にフェルトを貼ったり、絨毯を敷いたりして、Aの苦情に対する配慮を見せている。
4.Bが使用したフローリングは確かに遮音性能の低いものであった。しかし、費用やスラブからの寸法などの物理的制限により、より遮音性能の高いフローリングに再度改装することは、Bにとって難しい。
以上によれば、Bの対応としてはすでに十分であって、Aに対する損害賠償を命令するほどの責任はBにはない。
裁判所はこういう判断をした上で、騒音は「受忍限度」内のものであるから、BにはAに損害賠償をする義務はない、と結論づけました。
裁判官の判断の基礎になっているのは、騒音の大きさが一定の数値内である、ということのみではなく、訴訟に至るまでの双方当事者の話し合いの経緯など、もろもろの事実です。
つまり、Bも一定の対応をしたのだから、金を払わせるほどの悪質性はない、という、ざっくりした比較判断です。
本来ならば、Bが賠償すべきかどうかは「騒音レベル」という客観的な事実によって判断されるべきであって、Bの態度や人柄などは関係ないのですが、実際には、マンション住人同士の騒音裁判で裁判所が騒音源の人の責任を認めるためには、その騒音源の人が相当に「悪いやつ」である必要があります。
騒音レベルが一定以上あれば被害者の主張が認められる、という単純な話ではないのです。
次の事例の判例で、そのあたりのニュアンスを見てみます。